★2004年5月〜2010年5月までの日記は、『日常で歌うことが何よりもステキ』に収録しました。
★2010年6月〜2011年6月までの日記は、『いやらしさは美しさ』に収録しました。
1月9日(水)
青林工藝舎の浅川満寛さんから、『伊藤茂次詩集 ないしょ』という本を薦められた。版元の龜鳴屋(カメナクヤ)に注文すると、発行者の勝井隆則さんからメッセージがあった。
「早川義夫さんは必ず読むべき」と書いてくれた浅川さんに、『ないしょ』のことを知らせてくれたのはつげ義春さんで、そのつげさんからいただいたハガキには、「私は生きて行く不安や動揺を鎮めるため、自己否定を心がけているのですが、この詩集を拝見して自分の甘さを痛感させられました。」とありました。アル中のかいしょなしの、どうにもしょぼくれた詩集ですが早川さんの胸突く作品が一篇なりと、ありますよう。
本が届き、まず本作りに驚いた。損得ではなく、自然か不自然か、美しいか美しくないか、正しいか正しくないかで仕事をなされているのだろう。パラフィン紙に被われた表紙をそっと開く。滝田ゆうの扉画。川本三郎の跋文。小幡英典の写真。ナンバー入り奥付版画。文庫判416頁。限定333部。1600円。請求書1枚見ただけで清められる思いがした。きどりがない。飾る隙間もない。たとえば、「ないしょ」という詩。
女房には僕といっしょになる前に男がいたのであるが
僕といっしょになってから
その男をないしょにした
僕にないしょで
ないしょの男とときどき逢っていた
ないしょの手紙なども来てないしょの所へもいっていた
僕はそのないしょにいらいらしたり
女房をなぐったりした
女房は病気で入院したら
医者は女房にないしょでガンだといった
僕はないしょで泣き
ないしょで覚悟を決めて
うろうろした
ないしょの男から電話だと
拡声器がいったので
女房も僕もびっくりした
来てもらったらいいというと
逢いたくないといい
あんたが主人だとはっきりいってことわってくれというのである
僕はもうそんなことはどうでもいいので
廊下を走った
「はじめまして女房がいろいろお世話になりましてもう駄目なんです逢ってやって下さい」と電話の声に頭を下げた
女房はあんたが主人だとはっきりいったかと聞きわたしが逢いたくないといったかと念を押しこれで安心したといやにはっきりいうのである
僕はぼんやりした気持で
女房の体をふいたりした