★2004年5月〜2010年5月までの日記は、『日常で歌うことが何よりもステキ』に収録しました。
★2010年6月〜2011年6月までの日記は、『いやらしさは美しさ』に収録しました。
9月4日(金)
9月1日、新宿JAMで行われた裏窓企画「三羽の侍」(灰野敬二/工藤冬里/早川義夫)というライブに水橋春夫君と出演した。今回、灰野さんとのセッションはなし。前回(4月12日)のライブ企画者福岡さんに、「どうして灰野さんと僕が結びついたのですか」と尋ねたところ、「自分は最初ジャックスを聴いていいなと思ったのですが、その時すでにジャックスは解散していて、そのあと灰野さんの音楽と出会ったんです。もし解散していなければ、ジャックスは灰野さんの音楽にたどり着いたのではないかと思ったんです」という答えだった。
その福岡さんに、どう思われるかわからないけれど、今の水橋君のギターの音を僕は聴いてもらいたかった。1992年に灰野さんは『マリアンヌ』をカバーしている。カバーなどという甘いものではない。これは灰野さん自身の音楽だ。
人はみなそれぞれ違う。どう解釈されようとかまわないが、ジャックスや僕の昔の歌は、暗く、どろどろとした、狂気じみた、情念を歌うといったふうなイメージに取られるふしが多々ある。たしかに、僕の見えない内面はそうかも知れないが、普段の僕は違う。
「誤解される人ほど美しい」(岡本太郎)が本当なら僕はかなり美しいことになってしまう。地下にもぐっていくような暗い場所より、明るくて広々とした静かな場所の方が断然好きだ。床や壁や机もゴキブリの保護色になるようなこげ茶色より、白っぽい色の方が好きなのである。昔、頻繁に通っていた新宿「風月堂」だって、うすーくクラッシックがかかっていて、ケーキが置いてある、ごくごく普通の喫茶店だった。一見普通であるということが、一番素晴らしいと昔も今も思っている。
僕と灰野さんが唯一共通していることは(愛煙家の方には申し訳ないが)、たばこの煙が苦手なことである。そして、あの爆音からは想像できないだろうが、灰野さんはお酒も受け付けない。健康的だ。そういえば、遠藤ミチロウさんも(ミチロウさんの『マリアンヌ』『シャンソン』『聖なるかな願い』は、いいなー)頭脳警察のパンタさんもお酒を飲まない。意外である。みんな誤解しあっている。