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書評 25

たとえモラルから離れていても

チューリップ 2006.2.19


朝日新聞掲載 2006年2月19日

大道珠貴「著] しょっぱいドライブ (文春文庫・420円)
坂崎重盛 [著]  「秘めごと」礼賛 (文春新書・840円)
茶木則雄[著] 帰りたくない!神楽坂下書店員フーテン日記 (知恵の森文庫・680円)


 僕はもう、笑えること、感動すること、Hなこと、それ以外はすっかり興味を失ってしまった。
 しかし、Hについては、わざわざ口にすべきことではないかも知れない。やはり、内緒にしといた方がいい。隠れてやりたい。ずっと秘密のままでありたい。その方が美しいからだ。
 ある日、犬と海岸を散歩している時、いかにも不倫していますというカップルがやってきた。男は校長先生、女は若い教師と勝手に想像した。空は真っ赤な夕焼け。ふたりは堤防に坐(すわ)るのだが夕陽(ゆうひ)なんか目に入らない。顔と手がべったりとからみあい、しなだれかかった女性の身体はもうとろけそうであった。
 まじめそうなのに、あまりに不釣り合いで大胆な行為だったため、犬仲間たちはあっけにとられ、気持ち悪いという顔をしたけれど、僕はうらやましかった。はたから見れば醜くとも恋人同士は純粋なのだ。そんな光景をふと思い出した。
 『しょっぱいドライブ』は34歳の女性が70歳くらいにみえる男性とデイトする物語だ。女性の名はミホ、男は九十九(つくも)さんという。九十九さんは人が良くて、気が弱くて、へなちょこだ。けれどミホの心はだんだんと揺れ動いてゆく。
 「一度、わたしたちは寝床を共にしたけれど、あれが性交なのかなんだったのかいまだにわからない。わたしはたびたび思い返している。いまこのひとときもガムを噛(か)みながら思い返している。『漏れそうです』と九十九さんは声をふりしぼるようにして言った」
 哀(かな)しいのはリアルだからだ。今もミホと九十九さんがその港町で一緒に暮らしているように感じる。
 『「秘めごと」礼賛』は、永井荷風、谷崎潤一郎、江戸川乱歩、吉行淳之介、石川啄木、斎藤茂吉、伊藤整らの作品を紹介しながら、家族の団欒(だんらん)だけが幸せなのではなく、世間のモラルからかけ離れた、愚かなる行為が人によっては生きてゆくエネルギーとなり、精神しだいでは「芸術作品」にもなりうると説く。
 『帰りたくない!』は酒とギャンブルとミステリーをこよなく愛する書店員のエッセイ集だ。波瀾(はらん)万丈を求めるあまり、家庭を顧みず家を空け、妻に罵倒(ばとう)される日々がつづられているものの、不思議と心温まる本である。


書評 25
朝日新聞読書面「ポケットから
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