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書評 3

生きていく意味を知りたい

光明寺の猫


朝日新聞掲載 2003年7月6日

大庭萱朗[編] 色川武大・阿佐田哲也エッセイズ1 放浪 (ちくま文庫・780円)
林望[著] 「芸術力」の磨き方 鑑賞、そして自己表現へ (PHP新書・700円)
豊田泰光[著] サムライたちのプロ野球 すぐに面白くなる7つの条件 (講談社+α新書・780円)


 本屋に行けば、答が落ちているのでないかと、つい思ってしまう。悩みがあるのではない。知識を得たいわけでも、ひまつぶしでもない。大袈裟かも知れないが、生きて行く意味を知りたいのだ。
 たとえば、「人生は不純だから……」(曽野綾子『魂の自由人』光文社)という言葉に出合うだけで、僕はホッとする。音楽でいえば、「さよならなんて言えない」(ジェーン・バーキン『アラベスク』ライヴ盤)を聴くたびに、泣けてくる。
 『色川武大・阿佐田哲也エッセイズ1 放浪』は、人生を相撲に例え「十四勝一敗」より「九勝六敗を狙え」という思想が面白い。「私は無学のせいもあるけれど」という書き出しの「文体についてかどうかわからない」という文章もいい。
 「自分の関心に他人を参加させようとすることを、一応、やめてみよう。その点では気楽になってみよう。そのかわり、何を記すかというと、自分の中の真摯(しんし)な部分を記してみよう。たったひとつ、真摯なものが、相手に伝わるような形をつくることにポイントをおいてみよう」。ひたむきなものしか伝わらないのだ。
 そういえば、『日本とは何かということ』(NHKライブラリー)の中で、山折哲雄は、司馬遼太郎と山本周五郎を評し、「志の高さと目線の低さ」と語っている。この言葉もいいなー。
 『「芸術力」の磨き方』は、趣味や遊びを芸術の域まで高めようという実践の本である。実は僕が自分で歌を作り出したのは、その歌に関してだけは、自分が一番うまく歌えるはずだという発想からであった。動機は良かったが、基礎が出来ていないため、歌はなかなか出来ない。しかし、キレイな気持ちになれば、きっと、キレイな歌は生まれてくる。
 あとがきに「芸術は『生きる力』である」「志を持つこと」「一生懸命に努力すること」とある。その通りだと思う。
 『サムライたちのプロ野球』は、「コミッショナー改革」から始まって、実名でメッタ斬りだ。ところで、「私設応援団」がうるさいとよく言われるが、僕は解説の方がうるさく感じる時がある。
 仮にあと数日の命だという時、自分は何を読み何を聴き何を見たいと思うだろう。何を食べ何を話し誰に逢いたいと思うだろう。いいものとどうでもいいものとの違いはそこにあるような気がする。


書評 3
朝日新聞読書面「ポケットから」
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