書評 22
語るべきことは語れないことだ
朝日新聞掲載 2005年10月9日小林秀雄[著] 小林秀雄対話集 (講談社文芸文庫・1470円)
ホーキング青山[著] お笑い! バリアフリー・セックス (ちくま文庫・714円)
岸田秀[著] 唯幻論物語 (文春新書・725円)
『小林秀雄講演』(新潮CD)をいつも聴いている。全編文字起こしをしたいくらいだ。どうして書き言葉より話し言葉の方がわかりやすいのだろう。抑揚や息遣いから顔の表情まで浮かんでくる。
「だからその私の本はこういうもんだっていうことを広告しようと思うけどもだね、実際はかいつまんで言えるような本じゃないんです。買って読んでもらわないと何だかわかんない本なんです。これも広告ですかな。そいでねそのいや実際そうなんですよ。あたしゃね読んでもらわなきゃわかんない本でなきゃ書きゃしませんよ。これで喋(しゃべ)ってわかる本なら何も本を出すことないんですから。でいっぺん読んだってなかなかよくわかんないからね。だから四千円は安いですよ」
『小林秀雄対話集』も面白い。坂口安吾には「何言ってやがる!」と裸でぶつかり、正宗白鳥には「正宗さんの奥さんはいい奥さんだなあ」と酔って甘える。
心を打つ言葉がいっぱいあった。「世間はまちがわんですよ」「美は精神のみに属するんだ」「書いてるものを重んずる人はぼくには面倒臭いのだな」「孔子がいってるね、『知る者は好む者に及ばない。好む者は喜ぶ者に及ばない』」
語るべきことは語れないことで、見るべきものは見えないものばかりだ。
『お笑い! バリアフリー・セックス』の著者は、「オマエなんかどうせ、そんな身体なんだから、一生女なんて知れねえんだよ!」と父親から言われたことへの反発もあった。女の子をナンパして「身障とヤれる機会なんてなかなかないよ!」と口説いたり、みんなに自信と希望をもってもらうよう、身障者専門デリバリーヘルスを体験する。
「いかに『障害者の性』ということが、他の一般のエロ話同様、実にくだらなく、バカバカしいものであるかということを、ぜひ知ってほしい」「『障害者の性』が笑って語り合えるようになれば なるほど、この『障害者の性』にまつわるさまざまな問題の解決は、近くなると思う」とホーキング青山さんは願う。
『唯幻論物語』は著者の強迫神経症と鬱(うつ)病の原因を自ら追究していく物語である。「自分がいかに卑屈であるかを理解すればするほど客観的には卑屈でなくなる」「卑屈な者のみが傲慢(ごうまん)になるのである」という分析に納得した。