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書評 7

感じる言葉はすうっと入ってくる

かるがも


朝日新聞掲載 2003年12月21日

曽野綾子[著] 今日をありがとう (徳間文庫・629円)
小林カツ代[著] 実践 料理のへそ! (文春新書・720円)
いしかわじゅん[著] 鉄槌! (角川文庫・629円)


 『今日をありがとう』は、日めくり形式の格言集である。たとえば、「三メートルしか歩けなかった人が、百メートル歩いたら、それはエベレストに登ったことと同じかもしれない。人にはそれぞれの山頂がある。神はそれを個別に見守る役である。もし神がなかったら、百メートルしか歩けない人は死ぬまで一人前でないことになる。しかし神の評価で見ると、その人は最高の登山者なのだ」
 カトリックではないが、なぜか、こういう言葉は、すうっと入ってくる。かつて、松井秀喜選手が「年俸が一番だからといって、いい選手だとは限りません」と言ったコメントに「おお」と思った。
 伊集院静のインタビューによれば、松井は人の悪口を「中学二年生の時から、一度も口にしたことはありません」と言う。これにはびっくりした。そして「僕は不器用だから、人一倍練習してやっと人に追いつける」だって。やはり、一流の選手は、一流の精神を持っている。
 でも、すごい人がすごいのではない。嫌なやつが嫌なのではない。そう感じるのは、自分も同じものを持っているからだ。ゆえに、すごいと思う人がすごいのだ。そうでなきゃ、僕は一生ホームランを打てないことになる。
 『実践 料理のへそ!』は、美味しいごはんを作るコツが、いとも簡単に書かれている。面倒でない。きどってない。「胡麻油をピャッとひく」「レモンをキュッ」「生姜は省いてもよござんすよ」など文章がすでに美味しい。簡潔でわかりやすい。略すところは略し、肝心なところはこだわる。まな板は水で流す。包丁だけは高いものを買う。揚げ物をカラリと揚げるコツ。何だか、一人でも作って食べることが楽しくなってくる。
 『鉄槌!』は、当事者だったらどうしようと思いながら読んだ。トイレに行っていたすきに、スキーバスが発車してしまい、それが原因で裁判にまで発展してしまうドキュメントである。災難はいつ襲って来るかわからない。弁護士費用のこと、裁判のしくみ、勉強になった。
 これを読んで思い出した。本屋をやっていた頃、妻が肩を痛め、整形外科でしなくてもいい手術を受けてしまったことがある。無知なため言われるがままだ。信じられなくなったから、許せなかったから、傷は心にも残ってしまった。


書評 7
朝日新聞読書面「ポケットから」
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