書評 12
秘話たっぷり 指にもピアノにも
朝日新聞掲載 2004年7月25日竹内久美子[著] 遺伝子が解く! 男の指のひみつ (文春文庫・539円)
井上章一[著] アダルト・ピアノ おじさん、ジャズにいどむ (PHP新書・756円)
峠恵子[著] ニューギニア水平垂直航海記 (小学館文庫・630円)
鳥や昆虫の性行動を誰もいやらしいとは思わないように、動物行動学の見地からすれば、人間の性行動も本来はちっともいやらしくはない。と思うのだが、いざ『遺伝子が解く! 男の指のひみつ』を紹介しようとすると、そのものズバリの言葉がいっぱい出て来るので、非常に困る。そこで、ほんの一例を。
「私は結婚しています。しかし時々こっそりマスターベーションしています。こんな私は罪深い男でしょうか」の問いに、著者は、アカゲザルやアカシカを例にあげ、マスターベーションが代償行為ではないことをきっぱり証明する。
「マスターベーションとは古い精子を追い出し、発射最前列を新しくて生きのいい精子に置き換える作業です」と答える。たくさん放出すればいいというわけではなかったのだ。また「薬指の長い男ほど、男性ホルモンの一種であるテストステロンのレヴェルが高い」そうだ。一時期、健康雑誌に薬指を引っ張ると、とてもいいようなことが書かれていたが、これと関係しているのだろうか。
『アダルト・ピアノ』は、女性にもてたいがために、41歳からピアノを始めた不純きわまりない話。僕とそっくり。違うのは「私は、八年間にわたり、血のにじむような努力をしてきた」という練習量の違いだ。
ピアノを習ったこともなく、譜面も読めない人がとにかく弾けるようになるには、本書でも語られているが、まず、コードを知ることだ。ドミソがCで、レファ♯ラがD、ミソ♯シがE。真ん中の音を半音下げればマイナー。これがわかれば、だいたい弾けるようになる。
著者はなんと『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』の「アマポーラ」まで弾けるようになってしまう。すごい。うらやましい。
でも、弾けない人がそれでもピアノを弾くにはどうしたらよいか。自分で曲を作ればいい。たどたどしくてもいい。人生と同じ。伝えられなかったことを歌にする。見えなかったものを奏でる。
『ニューギニア水平垂直航海記』は、女の子がヨットでニューギニアまで航海する日記。船酔い、排泄の苦労、隊長の怒号、ゴキブリの恐怖、ギャー、自分との戦い、面白かった。