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書評 14

リズムがある、心地よい、色っぽい

トビ


朝日新聞掲載 2004年10月24日

俵万智[著] 考える短歌 作る手ほどき、読む短歌 (新潮新書・693円)
川上弘美[著] センセイの鞄 (文春文庫・560円)
宇野千代[著] 青山二郎の話 (中公文庫・680円)


 たとえば、ピアノ弾き語りをする時、何が一番大切かというとリズムではないだろうか。リズム楽器がない場合、自分の身体の中に流れるリズムを引き出さなければ歌うことはできない。眠っている血を揺り動かさなければ歌にならない。
 一人は心細い。しかし、そこにギターなりヴァイオリンなりサックスといった楽器が一つでも加わると随分違う。もちろん、息が合ってないと駄目だが。すごい人は、メロディーを弾くだけでリズムが見えてくる。リズムをきざむだけでメロディーが聴こえてくる。呼吸と間から音楽が生まれる。
 短歌を作る時もきっとそうだ。『考える短歌』は「ここを、もう少しこうすれば、ぐっとよくなるのでは」という提案から投稿歌を添削する。
 「副詞には頼らないでおこう」「現在形を活用しよう」「主観的な形容詞は避けよう」など、僕などがつい陥りやすい欠点を指摘してくれる。「寂しい」という言葉を使わずしていかに「寂しさ」を表すか。
 「たとえば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか」(河野裕子)。やはり、いい歌はリズムと共に情景が広がる。
 『センセイの鞄』は心地よい小説だ。いったいどこの居酒屋に行けば「ツキコさん」のようなひとにめぐり逢えるのだろうか。一緒に「朧月」を眺めたい。「キノコ狩」に行きたい。「家になんか帰りません」と言われてみたい。
 青山二郎の名は、白洲正子の『いまなぜ青山二郎なのか』(新潮文庫)で知ったのだが、宇野千代の『青山二郎の話』には、妙に色っぽいシーンがあった。
 「『また来ます。』と言って、私が玄関で履物を穿き、門のそとへ出ようとすると、青山さんも同じように私のあとから出て来た。『あら、あなたも一緒にお出掛けになるの、』と言ったのであるが、そのときになって私は、青山さんが私の帰るのが気に入らない、いや、怒っている、と分ったのであった」
 最後に、青山二郎の「日本の陶器」からステキな言葉。「優れた画家が、美を描いた事はない。優れた詩人が、美を歌ったことはない。それは描くものではなく、歌い得るものでもない。美とは、それを観た者の発見である。創作である」


書評 14
朝日新聞読書面「ポケットから」
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