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書評 10

力まずに表現 うーん、むずかしい

名前不明


朝日新聞掲載 2004年5月2日

山口文憲[著] 読ませる技術 書きたいことを書く前に (ちくま文庫・630円)
木村裕一[著] きむら式 童話のつくり方 (講談社現代新書・735円)
小室等[著] 人生を肯定するもの、それが音楽 (岩波新書・735円)


 これまでの数々の失敗は、すべて力んでしまったことが原因だ。力を入れると力が出るのではなく、力を出すには力を抜かなければならなかったのだ。歌も文章もスポーツも生き方も同じだ。ひとつを学べば他が見えてくる。
 『読ませる技術』は、「うまい文章を書く秘訣」はないけれど、「まずい文章を書かないコツ」を教えてくれる。使ってはいけない言葉は、「決まり文句」「流行語」「庶民」「生きざま」などだ。「卑下」「自慢」も駄目である。
 「すでに誰かが書いていることは、書いてはいけません」「世間の常識をなぞってはいけません」「身近なことを書けばいいんです」。ここまでは納得できたが、「自分が書きたいことを書くな、ひとが読みたいことを書け」に、あれっと思った。「他人はあなたの人生に関心などありません」だって。
 では、いったい何を書けば良いのだろう。巻末の対談で、関川夏央氏が語っている。「あなたは特別じゃない。あなたはふつうの人です。ふつうの人がふつうの人に向けて書くときの面白さはなにかを考えなさい」が印象に残った。何だかまますす文章がへたになってゆくなー。
 『きむら式 童話のつくり方』は、誰もが「すぐに童話作家になれる」と断言している。「基本的には、でたらめな話を勝手につくっているだけなのである」
 ただし、「あなたにしか書けない」ものを書く。「一番肝心なところ、一番言いたいこと」は、書かずに、思わせる。「書かないところを想像しておいて、書いている場面でいかにそれを感じさせられるか」。うーん、むずかしい。
 いい演奏や歌が生まれる瞬間というのは、自分の力ではなく誰かの力を借りているような気がする。そうでなければ、能力以上のものが出て来るはずはない。『人生を肯定するもの、それが音楽』の中には、その見えない誰かを友達のように迎え入れるヒントが隠されていた。
 最近、最も感動した音楽は、「ロンドンハーツ」というテレビ番組で、出川哲朗氏が弾いた「星に願いを」であった。場所はローマ。プロポーズをするために練習した3分弱のピアノ演奏だが、これを超える音楽を僕は知らない。芸術は思ってもみないところにある。また、力んでしまった。


書評 10
朝日新聞読書面「ポケットから」
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