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書評 4

ああいいな、この名言

妙本寺の猫


朝日新聞掲載 2003年8月10日

山本夏彦[著] 植田康夫[選] 何用あって月世界へ 山本夏彦名言集 (文春文庫・543円)
酒井順子[著] 観光の哀しみ (新潮文庫・476円)
森枝卓士[著] デジカメ時代の写真術 (生活人新書・680円)


 長いスピーチは嫌われる。短いほどいい。文章もそうだ。一言でいい。たとえば、洋酒の宣伝文句。「なにも足さない。なにも引かない。」は、ものを創る時の姿勢、生き方にも繋がっている。
 『何用あって月世界へ』は、まさに名言集だ。「人みな飾って言う」など、空から僕らを映し出す。「本当のインテリなら、そのインテリぶりを誇示しない」「メーカーは技術者にマニュアルを書かしてはいけない。最も知る人は最も知らない人に訴える方法を知らない」「親切というものはむずかしいという自覚を、親切な人は忘れがちである」
 「(新聞に)自分のことを書かれたら必ず間違ってるのなら他人のことも間違っているはずですよ。それならほかのものも疑ってかかるのが当然なのに、ほかのものは信じる。これが活字の恐ろしいところなんです」。このことは、三木清も小林秀雄との対談で語っていた。新聞に限らず、人は人を語れない。
 『観光の哀しみ』は「招かれてもいないのに出かけていく」切ない本だ。行く時はわくわくしても、目的地に着くと、どこからともなく哀しさが漂ってくる。それでもまた、恋しくなる。著者の言うとおり、観光はセックスに似ている。
 ポケットにデジカメを入れている。本当は女の子を撮りたいのだが、あきらめて、もっぱら、屈んで犬と猫だ。あとは時々、老いた妻と頬を寄せ合い、腕を伸ばす。子どもを撮る時は、カメラを渡し自分撮りさせる。写真は、写す人の気持ちと、写される人の気持ちが写ってしまう。機種や腕ではなく、心が写る。
 デジカメは撮った後が面白い。要らないカットはすぐ消せるし、トリミングしたり、自分でプリントするのが楽しい。しかし、なるべく加工しない方がいい。画面の端に余計なものが写ってしまっても、それはそれでいいのだ。あともう一歩、近づいて写せるようになればいい。
 『デジカメ時代の写真術』にも、記念写真のコツは、「撮りたい人物に近づいて、大きく撮る。撮った場所はそれと分かる程度でいい」と書いてあった。
 有名な話なのだろうけれど、テレビでさんまさんが「<生きてるだけで丸儲け>という意味で子供の名前に<いまる>って付けたんですよ」と言った時、ああいいなと思った。最も短い名言だ。


書評 4
朝日新聞読書面「ポケットから」
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